インタビュー

私らしく人生を歩みたい―。
そうは思うものの、そもそも「私らしさってなんだろう」と疑問が浮かぶ人もいるはず。
「La-Chic」では様々なフィールドで「私らしく」生きる女性=“ラシカりすと”達にインタビューしながら、読者の皆さんと一緒にそのヒントを見つけていけたらと思っています。

今回のラシカりすと

関 美佳さん

一般社団法人小さな冒険学舎

関 美佳 さん

出来ることも出来ないことも
全てが「自分」と認めること【前編】

富山県で「一般社団法人 小さな冒険学舎(旧 寺子屋つながリンク)」という野外教育事業を営む関さん。愛知県に生まれ、高校時代を新潟県十日町市(旧松之山町)へ山村留学し、愛知の大学へ進学。卒業後はアメリカ・インディアナ州立大学へ留学と、留まることを知らない勢いで行動し続けてきた関さん。そんな関さんの秘められた想いについて伺います。

学校では学べない経験が
野外教育には詰まっている!

ーまずはじめに野外教育とはどういうものを指すのでしょうか?

私は、キャンプ指導員の資格を持っているのですが、その知識を活かして、野外での教育活動を行っています。ここでは「自分の人生を自分の足でしっかり歩んでいけるように、自分で考え、自分で決断し、自分で行動を起こし挑戦できる力」を身につけることを目指しています。主体的に「生きる力」を育むための体験型教室を野外中心に展開しています。
ただ体験をすれば、力がつくわけではなく、力をつけるための独自のカリキュラムに沿った活動を組み込み、企画・運営しているところが特長ですね。

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―キャンプの指導員というのはどんな仕事なのでしょうか?

キャンプというのは、皆さんがイメージする通り、自然の中で誰もが楽しめるもので、そこには多くの体験や学びがあります。楽しく安全に活動を行うためのキャンプ知識や技術を持っているのが「キャンプ指導員」です。

 

 

楽しく笑って暮らす
そのために必要なこと。

―キャンプ指導員になりたい、というのはいつ頃からどんなきっかけで思い始めたんですか?

小学6年の頃からキャンプ指導員になりたいと思ってきました。
通っていた幼稚園の卒園生を対象にした小学生向けのキャンプが、春休み・夏休み・冬休みに開催されていたんですが、それに毎回参加していたんです。そのキャンプは私が通園していた附属の幼稚園に関連する大学の先生と生徒が企画するものだったんですが、その先生の話がとにかく面白かったんです。その先生の影響でキャンプにハマりました。優しい先生という記憶よりも、とにかく楽しいという記憶が強くて!先生も昔話を聞くのも、いろんな情報を聞くのもすべてが楽しかったです。
それに初めて会う人たちとの交流も魅力でした。
毎回通っているうちに、キャンプの指導員になりたい想いが芽生えてきて、小学6年になったとき「本当にキャンプの指導員になりたいなら、高校までは出てこい。大学からは俺が面倒をみてやる。」と先生が言ってくれたんです。
「ホントにキャンプの指導員になれるんだ!」と思って、私の中でスイッチが入りました。その先生のように笑って暮らせる、遊んで暮らせるんだ、と子どもながらに嬉しくなったのを覚えています。

 

―高校を卒業後、恩師の元へ学びに行った、ということでしょうか?

いえ、それがそうではないんです。

せっかくキャンプ指導員になるなら、「いろんなキャンプを―」、そして「いろんな世界」を知っていた方がいいと思い、中学の時に1ヶ月間アメリカにホームステイしたり、高校は新潟へ山村留学したり、アメリカに1年留学したりもしました。当時のアメリカ留学は高校の単位として日本で認められなかったので、高校はトータル4年過ごすことになりました。
高校を卒業すると、両親から「高校で親元を離れ、新潟で暮らしたんだから、卒業後は地元・愛知へ戻ってきなさい。」と言われ、愛知へUターンしました。
愛知へのUターンも決まり、大学進学を考えるころに、先生のところへ進学するのも選択肢にはあったのですが、同時に「私はどうしてキャンプをやりたいんだろう」と考えるようになりました。
そして、「私はアウトドアが好きなわけではなく、異年齢・異地域、性別も違う、初めましてのみんなが集まって、何かをするのが好きなんだ。」と気付いたんです。それがたまたま野外なだけだと。
野外で過ごすとき、参加するメンバーがそれぞれに抱えている事情は取っ払われて、身一つで集まってくるんです。
それが面白いんです。
「人間関係って面白い」と気付き、それを勉強するために愛知の大学へ進学しました。もちろん、その間にも様々なキャンプイベントに参加し続けました。
大学を卒業する頃に、小学時代のキャンプの恩師に今後を相談したところ、「本気でやりたいなら、アメリカで勉強してきたら?」と言われ、親に相談したんです。
「お金はあとで返すから」と頼み込んだら、両親は許してくれました。それで大学卒業後、さらにアメリカの大学でレクリエーションマネジメントについて学び始めました。

 

―キャンプをやりたい理由の話の中で、野外では個人個人が背負っているものがなくなって、一人の人として集まってくる…というのはいつ頃から思っていたのでしょうか?

そうですね、子どもの頃からそう感じていたと思います。
学校での成績とか、学校内での地位のようなものとか、学校生活で作られた性格がリセットされて、ゼロになる感覚がありました。
もしかしたら子どもながらに「しがらみ」を感じていたのかもしれません。
「この子はこういう子」と決めつけられるのが嫌だったんだと思います。
自分のことを誰も知らない「キャンプ活動」という場へ行くと、素で過ごすことができて、その自分の様子に誰も驚かないんです。それがすごく良かったんですよね。
野外では、学年も関係なくなります。年下だろうと凄いと感じる人は凄いし、年上でも私が助けられることがあるんだ…と気付かされることもありました。
「美佳」という人間だけで、役に立てたり、手伝ってもらえたりすることを体験できたのは貴重な経験でした。

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私は「わたし」。
自分を大切にするために。

―キャンプを学びにアメリカへ、とのことですが、日本のキャンプとそんなに異なるものなのでしょうか?

アメリカのキャンプには、そもそも「プログラム」自体がないんです。
日本の場合は、何時に起きて、午前は何をして、午後は何をして、と決まっていることがほとんどですよね。
それに対して、アメリカは起床と消灯だけ決まっていて、その間の時間に何をして過ごすかは自分で組み立てていくんです。選択できるアクティビティエリアだけは決まっていて、その中にアート・スイミング・レクリエーション・フォレストなどといったプログラムがあり、指導員から説明を受けたら、それぞれ選択していきます。チームで決めるわけでなく、個人が選択していくのも日本にはあまりない光景でした。
アメリカ留学は、レクリエーションマネジメントを学びに行っていたので、私自身が提供できるレクリエーションを子ども達に説明し、それを聞いて子ども達が自分たちの意思で選んで参加しに来る、といった感じです。

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―なるほど。つまり、アメリカのキャンプでは子ども達の自立や自分の意思を貫くことを体感的に学べるわけですね。

そうです。
例えば、アメリカのキャンプでは各プログラムに参加して、そこで友達を作るんです。
日本の場合は、先に友達を作って、その友達と行動を共にしますよね。だから友達に合わせるようにもなるんです。
アメリカはそうじゃないんです。友達の意見に縛られることはありません。だから意見が割れて争うこともないんですよ。日本だと「本当はこれがやりたかったのに」、「私は我慢したのに」、「譲ったのに」と争うこともありますよね。
もちろん、仲間がいて、規律よく行動する能力も大切ではあるんですけど、アメリカ流には驚かされてばかりでした。

 

―規律だけでない日本の教育が広がって欲しいですね。

そうですね。私は、学校って日本社会の縮図だと思っているんです。だからといって日本の学校が悪いと言っているわけではありません。ただ、この環境の中でいかにして「自分らしさ」を見つけていくのか。そのための時間と余裕とプログラムが整っていないんじゃないかなと感じています。
だから私は、学校以外の場所で野外プログラムとして事業を始めたんです。
「主体的に生きる力」を育むためにプログラムを考え、体験することが目的ではなく、体験するためのプロセスを目的にしています。
キャンプというと野外で楽しく遊んで、というイメージがあると思いますが、私が提供していることはキャンプじゃない、教室であり、教育なんです。
一般的な自然体験に比べたら金額も高いし、パッと見のプログラム内容もこちらの方が少なく見えるかもしれません。けど、このプログラムでは子ども達の意識や個性、主体性を引き出しています。
目的はプログラムをこなすことではなく、自己肯定力を身につけることやコミュニケーション力を身につけること。ただ単純に「参加して楽しかったね」ではなく、目的を達成するために必要なことを組み合わせているんです。
これがなかなか伝わらなくて、今はまだ苦労もしているんですけどね(笑)。

 

 

―後編へ続く。

関 美佳さん
プロフィール

関 美佳 さん

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一般社団法人小さな冒険学舎
(旧 寺子屋つながリンク)代表